2013年02月03日 11:25

サイトのリニューアルをやめて、チューニングをしよう

Smashing Magazineで公開された著者Louの記事が面白かったので翻訳しました。


Stop Redesigning And Start Tuning Your Site Instead - Lou Rosenfeld

インフォメーションアーキテクト(IA)としてのこの20年間、クライアントが、価値がなく無意味な「一回直しておしまい」のリニューアルに何億ものお金をつぎ込んでドブに捨ててきたのを見てきました。大きな政府機関、フォーチュン500企業、NPO、(特に)高等教育機関など、あらゆる種類の組織がこの罪を犯しています。

最悪なことに、こういった組織は、金遣いの荒い健忘症患者のように、数年おきにこのようなリニューアルを繰り返しています。アインシュタインが狂気について何と言っていたか知っていますか?(ご存知なければこちら)まるで大金を使って失敗するのを見られるのを楽しんでいるかのようです。残念ながら、エンドユーザーが直面している問題をサイトリニューアルで解決できることはほとんどありません。

こんな状況は変える必要がある!と私はイライラしています。では、なぜこんなリニューアルが実施されるのか、どうすればもっとシンプルかつ安く済ませられるのかについて見ていきましょう。

診断の欠如

サイトのユーザーが、分かりにくいナビゲーション、古くさいコンテンツ、貧弱なユーザビリティなどのUX的な欠陥に文句を言っているとします。あなたは、その不満をウェブサイトオーナーに伝え、オーナーはそれを聞いて、対応が必要だと判断することでしょう。ここまでは正しいのですが、すぐに軌道を外れることになります。

ほとんどのウェブサイトのオーナーは、大きくて複雑なウェブサイトが抱える問題を、どうやって解明したら良いのか分かりません。方法を教わったことがないので、まるで新種で悪性の伝染病患者に突然対処しなければならなくなった田舎の街医者のように、不運で難しい立場に立たされるのです。対応するのは彼らの仕事ですが、単純に準備ができていません。

残念なことに、多くのウェブサイトオーナーは、診断できない代わりとして、聞こえの良いソリューションを導入(正確には承認)しようとします。そして、このように問題と予算を抱えた企業に対して、ブラックなベンダーが飾り立てたソリューションを提案します。ツール自体(検索エンジン、CMS、ソーシャルアプリなど)は素晴らしいのですが、それらは単なるツールに過ぎません。しかも非常に高価で、組織が抱える問題そのものに対するソリューションではないことが多いのです。問題を適切に診断してからツールを設定しなければ、ユーザーエクスペリエンス(UX)の確実な改善は見込めません。

デザイン会社が問題の診断を委託されることもあります。すべてのデザイン会社がそうではありませんが、チームが費やす時間をなるべく増やして請求額を増やし、短期で納品するというビジネスモデルに囚われがちです。診断していると、仕事が遅くなります(だからクライアントはRFPに診断を含まないことが多い)。そのため、多くのデザイン会社は、見た目だけのリニューアルをすることによって、目に見えるものを迅速に納品し、クライアントをハッピーにするのです。

かわいい顔は数年しか持ちませんが、デザイン会社はその時にはもういなくなっています。また、異動してきた新しいオーナーは、ウェブサイトの見た目を新しくすることで自分の手柄を見せつけたいと思っています。別のデザイン会社が、喜んでその願いをかなえるでしょう。こうしてストーリーは繰り返されます。

さらに、こういったリニューアルは値が張るものです。たとえば、1800万ドル(16億円)かかります。

私が不機嫌な理由が分かりましたよね?

ロングテールを忘れよう:ショートヘッドが大事

デザイナーやリサーチャー、ウェブサイトのオーナーの誰にとっても良い話です。診断は必ずしも難しかったり高かったりはしません。診断で見つけた問題に取り組むことも、そんなに難しくはありません。

もっともいい話です。小さくシンプルな修正だけで、高価なリニューアルよりもはるかに多くの効果を出せます。なぜなら、人の意識はほんの一部にしか向かないからです。次の図を見てください。

 

このホッケースティックのようなカーブは、ジップ曲線と呼ばれています(これは言語学の用語で、ジップ氏はワードをカウントするのが好きな言語学者ですが、細かいことは気にしないでください)。今回は動物風のデザインで、サイト内検索のクエリの頻度を表しています。左側のもっとも頻繁に検索されたクエリは、極端に頻度が高く、「ショートヘッド」と呼ばれます。そして、右(の「ロングテール」に潜む、一度しかされない検索)に行くに連れて、検索頻度は落ちていきます。非常に落ちます。本当に長いロングテールになります。

このことは、この世において絶対的に一番重要なことですので、明確にしておきましょう。図ではなく文章で同じことを説明します。

検索順位 累積 % 検索回数 検索クエリ
1 1.40% 7,218 campus map(キャンパスの地図)
14 10.53% 2,464 Housing(住まい)
42 20.18% 1,351 web enroll(ウェブ履修登録)
98 30.01% 650 computer center(コンピューターセンター)
221 40.05% 295 msu union(MSUユニオン)
500 50.02% 124 hotels(ホテル)
7,877 80.00% 7 department of surgery(外科)

この大学のウェブサイトでは、ユニークなクエリが数万件検索されましたが、最も検索されたクエリ一つで、全検索トラフィックの1.4%を占めました。数万もの内のたった一つの検索クエリということを考えれば、巨大な割合です。ショートヘッド部分の検索クエリを14個集めると、10%になります。数万のうち、たったの14個だけで、です。42個で、ウェブサイトの検索トラフィック全体の20%を占めます。約100個で30%になります。

ジップの世界で生きる

とても良い話です。

サイト内検索のパフォーマンスを改善したいからといって、今の検索エンジンをやめて他のものに買い替えることなどしないように!100個の最もよく検索される検索クエリをテストしながら、パフォーマンスを改善しましょう。時間がないなら、トップ50個や10個、いえ「campus map(キャンパスの地図)」という1個だけでも、実際に検索して、テストしてみてください。役に立つ、関連した情報は表示されましたか?表示されなかった場合は、なぜなのでしょうか?コンテンツが無いからですか?タイトル付けが間違っているからですか?タグ付けが間違っているからですか?それとも、言葉の使い方が悪いのでしょうか?皆さん、これが診断というものです。ご自身のウェブサイトのショートヘッド部分で実施すれば、診断の効果は絶大です。

話はさらに良くなります。ジップは法則なので、すべてのウェブサイトの検索クエリが、ジップ分布を描きます。

話はさらに、飛び跳ねて叫び出したくなるほど良くなります。ジップの法則はサイト内検索のクエリだけでなく、コンテンツにも当てはまるのです!少数のコンテンツだけで、大きな働きをしてくれます。ロングテール部分の多くのコンテンツには、ほとんどもしくは全く実際的な価値がありません。(Microsoft.comのコンテンツの90%が今までに一度もアクセスされたことがないという噂を聞いたことがあります。ただの一度も、です。ただし噂なので、ここで聞いたといわないでくださいね。)結論:サイトのコンテンツすべてをリニューアルしないで、実際に必要とされているものにフォーカスしてください。

ウェブサイトの特徴は、ショートヘッドに表れます。ユーザーには、ほんの少ししか必要ありません。それ以外は、単なるおまけのようなものです。

ジップの法則はまだあります。あなたのサイトに訪れているオーディエンスタイプのうち、気にすべきは1つか2つのタイプのみです。そのオーディエンスタイプは、サイト上で何を成し遂げたいと思っているのでしょうか?ショートヘッドにあたるタスクは、2〜3程度です。それ以外はさほど重要ではありません。

このように、ジップの法則はどこにでも存在し、幸運なことに、この現象は役に立つものなのです。ウェブサイトのコンテンツや機能、検索性、ナビゲーションや全体のパフォーマンスをチューニングする際の優先順位付けをするために使えます。

ウェブサイトは民主主義ではない

ドキュメントやユーザーのタスク、検索行動などのショートヘッドを調べると、もっとも解決すべき問題が見つかります。その結果、海全体を沸騰させようとする無駄を避けることになり・・・

・・・診断対象を絞り込み、本当に大事な問題を解決できるようになります。

今度は、このようなショートヘッドの考え方をまとめましょう。以下は、ある大学のウェブサイトに関する成績表です。ショートヘッドのオーディエンスにフォーカスしています。

言い換えると、この大学のウェブサイトのオーディエンスのうち重要なのは、これから大学にお金を払うであろう人(出願者)、現在大学にお金を払っている人(学生)、生涯お金を払い続けてくれるであろう人(卒業生)の3つのタイプだけです。この人たちが最も重要なオーディエンスだと、どのように判断するのでしょうか?ユーザー調査をしても良いのですが、たとえばサイト分析をすると、他のオーディエンスよりもより多くのトラフィックを発生させていることが分かります。または、大学のステークホルダーが、その影響と収入の面で最も重要だと判断しているかもしれません。もしくは、その両方です。いずれにしても、この3タイプのオーディエンスが、重要性において他のセグメントを圧倒していると言えます。

次は、各オーディエンスタイプのショートヘッドタスクと情報ニーズを知りたいところです。ステークホルダーにインタビューして何を考えているか聞くこともできますし(左から2列目)、調査で、最も重要なことを聞くことも可能でしょう(3列目)。

当然のことながら、xkcdのサイトで描かれたように、ステークホルダーとユーザーはいつも同じ見方をするとは限りません。

そのため、ステークホルダーとサイトユーザーの両方に聞くことが重要なのです。双方のショートヘッドを理解したら、 バランス良く取捨選択をして、両者のニーズを満たせるようにリストを統合するという作業が必要になります。4列目がその結果です。

最後に5列目で、各タスクやニーズのパフォーマンスを評価しました(大学の事例なので、学校の成績風)。もっとお金をかけて統計的に評価することもできるのでしょうが、この手のテストにはあまり時間やお金をかける必要はないというリサーチ結果あります。もっと重要なことは、オーディエンスのニーズやタスクはかなり狭いのでテストするのが簡単、という点です。

テストをすると、何がうまくいっていないのかが分かります。例えば、出願者にとって「メンター」に関する情報を探すのは難しいことだと分かりました。また、学生は「成績を閲覧」するのにひどい目に合っています。

さて、問題の診断が終わったので、修正に取りかかる準備ができました。「ペアガイダンスプログラム(Paired Guidance Program)」というページタイトルは「メンター」に変更をしましょう。成績証明書の送付を請求するためのランディングページを作りましょう。診断という難しい作業が終わったので、後はリソースが許す限り、ウェブサイトのパフォーマンスを修正しチューニングするだけです。

「プロジェクト」よりも、結果が得られる「プロセス」へ

このような小さく具体的な修正だけでも、ショートヘッドに対して行えば、リニューアルと比べて無に近いコストでユーザーエクスペリエンスを大幅に改善できます。

チューニングのプロセスそのものは、以下のように極めてシンプルです。

このシンプルなプロセスを、月や四半期ごとに定期的に繰り返せば、せっかくのデザインやコンテンツが古くなっていくエントロピーを回避することができます。というわけで、2年がかりのサイトのリニューアルは、もう止められますよね?

ウェブサイトのオーナーはこれでハッピーになるべきです。あなた自身もです。なぜなら、ウェブサイトを「正しく」直すなんて不可能なプロジェクトに取り組む代わりに、細かい調整とチューニングに集中することができるからです。サイトリニューアルなんて忘れて、継続的な改善のプロセスを自分自身で回すことで、その恩恵を受けることにしましょう!

Louis Rosenfeld - 著者

PayPal、Lowes、Fordなどの大きく複雑な組織が抱えるファインダビリティの問題を解決するインフォメーションセラピスト。ユーザーエクスペリエンス(UX)関連書籍を出版するローゼンフェルドメディア社の創業者。図書館司書のバックグラウンドを持ち、「Web情報アーキテクチャ - 最適なサイト構築のための論理的アプローチ」(オライリージャパン 2003年)を共同執筆。「サイトサーチアナリティクス アクセス解析とUXによるウェブサイトの分析・改善手法」(丸善出版 2012年)の著者、そして、情報アーキテクチャ研 究所(Information Architecture Institute)の共同創業者でもある。Internet World、CIO、Web Review magazineでも執筆経験があり、時折、ブログを書き、よくツイート(@louisrosenfeld)している。

SPECIAL THANKS

Eva-Lotta(イラスト)英国ロンドン在住のUXデザイナー/イラストレーターで、Googleでインタラクションデザインを担当。ウェブをもっとわかりやすく、使いやすく、楽しい場にするという昼間のミッションに加え、いろいろな講演やカンファレンスで sketchnotes を描き、最近、自費で2冊目の本を出版。その他、スケッチワークショップでも教えており、ビジュアル即興(と彼女が呼んでいるもの)に関心を寄せている。 スケッチと即興を同時に探検しながら、演劇の即興の原則をビジュアルワークのインスピレーションにしている。

池田 清華(翻訳)株式会社リクルートジョブズでウェブベースの新規事業開発を担当。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア株式会社)、株式会社インターブランドジャパンを経て現職。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修了。

清水 誠(監修)米国ユタ州のAdobeにて、「Adobe SiteCatalyst」などのデジタルマーケティング製品のサービス改善を担当。1995年からウェブに携わり、UX、アジャイル開発、CMS、アクセス解析など分野を変えつつ実践・啓蒙を続けている。執筆・講演多数。国際基督教大学教育学科修了。

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